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Explore Our Facility大竹寛子 絵画作品
日本画の伝統的な技法を基に、箔や岩絵具を用いて新たな表現を展開し
国内外で広く活躍している、大竹寛子氏の絵画を院内の各階に展示してございます。ご来院時に原画をご覧ください。
大竹寛子氏より届きました、各絵画のメッセージをご案内致します。
さがら病院宮崎 1F
「守-shu- 破-ha- 離-ri-」
80.3 × 100.0cm × 3点セット
紙本彩色、銀箔、岩絵具 2023年
守-shu- 破-ha- 離-ri- とは、千利休が提唱した考え方です。
「守-shu-」は、守るべき・学ぶべき基本の型を徹底して身につける。
「破-ha-」は、守を相対的に捉えてそれを否定して破壊して、創意工夫で自分にあった型を模索する。
「離-ri-」は、自分のオリジナルな型を確立する、あらゆる型から離れて自在の境地に至る。
蛹から蝶が飛び立つように、自己革新を繰り返しながら成長していく様子をイメージして描きました。
守破離は私が探究していきたい考え方で、なかなか「離」には到達できていませんが、これからも考えていきたいと思っています。
生物のことを考えると、私たち人間の身体は絶えず変化し、細菌などの他者によって住まわれており、生命プロセスのさまざまなバランスによって一定の姿かたちをかろうじて維持しています。生と死はお互いに内包していて、世界は流動的であり、変化のただなかにあると感じています。
また流動的であることと相反する恒常的であることが同時に存在するという関係の中にこそ真理があるのではないか、と作品を通して模索しています。モチーフとして扱う蝶や花に重ねるイメージも、常に流動的な現在の瞬間です。幼虫から蛹、蛹から成虫として全く形の異なる蝶になるという完全変態形を持ち、揺らめく様に飛ぶ蝶。蕾から花が咲き、やがて枯れ、種が出来る自然の摂理の中に儚さ、そして強さや美しさを感じます。
流動的で儚いものをあるがままに受け入れ、自然の中にそれを見出し、自然と共存しながら精神的な成熟を試みてきたのが日本人のアイデンティティの一部であると感じています。
異なる文化の共生、部分と全体の共生、歴史と現代が共生する美意識を解釈し日本画というカテゴライズを超えて、制作していきたいと考えています。
現代日本画家 大竹 寛子
さがら病院宮崎 2F
「ゆらぎ Vol.1」
97.0 × 130.3cm
紙本彩色、金箔、銀箔、岩絵具 2024年
自然界に直線がないように、自然現象にも不変の規則性はなく必ずゆらぎを伴う。
そよ風、川のせせらぎ、木漏れ日、野鳥のさえずりのように、心地よく感じたり、リラックスできるものには共通点がある。いずれも適度な「ゆらぎ」があるのだ。ゆらぎとは、完璧な規則性を持つオフイスの空調や照明、電話の呼び出し音などと異なり、一定の平均値から少しだけズレた不規則な規則性を持つ現象。
自然の一部である人体の脳波や心拍数、血圧や血流などもゆらぎを帯びている。ゆえにゆらぎに満ちた環境は自らの生体リズムとシンクロして心地よさを感じ、副交感神経が優位になりやすい。
大自然に囲まれた温泉地を訪れたり、深い森を歩いたりすると心が静まってリラックスするのは、温泉や森林浴の効用ではなく、自然のゆらぎによる癒やしの賜物である。
1/f(えふぶんのいち)ゆらぎは、規則性と突発性、予測性と逸脱性が適度に組み合わさったもので、居心地のよい空間と情報を与え人の心を落ち着かせるといわれています。
いつかのメモより。
そんなゆらぎ、私にとっての”ゆらぎ”は、私たち人が存在する前から、生物が存在する前から、地球が存在する前から、ゆらぎが宇宙にあり、何かが誕生して終わりがあり、誕生と終わりを内包するような存在。生命と無生物を内包して、海の中にいるような宇宙にいるような作品が作ってみたいと思い制作しました。
さがら病院宮崎 3F
「Spiral Vol.10」
100 × 100cm
紙本彩色、銀箔、岩絵具 2023年
サグラダ・ファミリア聖堂の建築で有名なアントニ・ガウディは、”芸術におけるすべての回答は偉大なる自然の中にすべて出ています。ただ私たちは、その偉大な教科書を紐解いていくだけなのです。”という言葉を残しています。とても好きな言葉で深く共感しています。またガウディが創造の源泉としていたといわれる3つの要素は、「歴史」「自然」「幾何学」です。自然の法則、自然力学が最も合理的なものだと考え研究した「逆さ吊り実験」の模型はとても印象に残っています。
作品「Spiral」は自然界の法則「螺旋(らせん)」から着想を得ています。螺旋形状は自然界であらゆるところで観察されます。 「植物の葉」は茎の成長と共に「螺旋状」に葉を付け、茎を中心にして2方向、3方向、5方向、8方向に生えていきます。 この生え方をすることによって、自然と葉同士が重ならずに、光合成の効率を上げるようになっています。また自然界に多くみられる数列「フィボナッチ数列」も螺旋と深い繋がりがあり、「花びらの枚数」や「松ぼっくりの鱗(うろこ)模様の列数」、「ひまわりの種の列数」はフィボナッチ数が多いといわれています。さらには「人のDNAの2重螺旋構造」、「台風の渦巻き」、「銀河の渦巻き」にも見られ、螺旋を想うと自然や宇宙の法則を垣間見た気持ちにもなります。スパイラル・螺旋は「生命の曲線」とも言われているようです。
この作品は、そのような螺旋状に変化の象徴である花と蝶を配置して、銀箔を硫化させて腐食した色合いの上に岩絵具を用いて描いています。
銀箔を焼く事で、花が咲きながら枯れていくことを予感させ、蝶は短くも長い生命を儚くも力強く飛んでいる様子を表現しています。
全面に銀箔を貼り、光を反射させることで見る角度によって見え方が異なり、また光が画面の中から差し込んでいるような効果を作り出しています。
私の作品の一貫したテーマである“流動的瞬間の中にある恒常性” は動的平衡の様に絶えず変化し続けるからこそ現在の自分を維持できていること、春夏秋冬と繰り返される季節も同じ様で去年と同じではないこと、アートマンとブラフマンの関係の様に、流動的であることと相反する恒常的であることが同時に存在するという関係の中にこそ真理があるのではないか、と作品を通して模索しています。
流動的で儚いものをあるがままに受け入れ、自然の中にそれを見出し、自然と共存しながら精神的な成熟を試みてきたのが日本人のアイデンティティの一部であると感じています。
異なる文化の共生、部分と全体の共生、歴史と現代が共生する美意識を解釈し日本画というカテゴライズを超えて、制作していきたいと考えています。
さがら病院宮崎 4F
「Garden, Avize」
803 × 1000cm
雲肌麻紙、銀箔、岩絵具 2024年
2024年7月にシャンパーニュ地方に旅行し、Avizeのオーベルジュに滞在しました。ジャック・セロスという有名な生産者さんが経営するオーベルジュで、偶然にも前当主のアンセロム・セロスさんにワイナリーを案内していただきました。蔵の中でシャンパンの試飲をして、彼のシャンパン造りに対する実直な姿勢や哲学を現地で聞く機会をいただけてとても感動しました。蔵の中には、フランス語で、“L’Autan même”通訳の方に聞いたところ意訳で “Different = Same” と書いてあると教えていただき、私の制作のテーマである“流動的な中にある恒常性”とも繋がりを感じました。彼は自然の中に既にあるポテンシャルを最大限に活かしたシャンパン作りを行っています。私自身も自然の摂理をテーマに常に変化する時間や物質、また心の変化も含めて個と社会の二元論ではない、アートマンとブラフマンの関係性の様に、それらが同時に存在しているということを自身の作品の中で表現できればと改めて感じました。作品はオーベルジュの庭のラベンダーや白いバラが咲いている、のどかな風景を抽象的に表現しています。
「Garden, Vosne-Romanée」
803 × 1000cm
雲肌麻紙、銀箔、岩絵具 2024年
2024年7月にブルゴーニュのボーヌ・ロマネに5日間ほど滞在して、ボーヌ・ロマネの生産者さんのワイナリーを訪問しました。ホテルではなく知人の家に泊めていただいたので、食事は自炊してサンルームで食べたり、畑を散歩したり、自転車で少し遠くの畑を散策したり、とてもゆっくり過ごすことができました。ボーヌ・ロマネという地域はロマネ・コンティがあり、ワイン好きには有名な聖地的な場所ですが、馬が畑を耕すお手伝いをしていたり、とてものどかな村です。そんなボーヌ・ロマネにある最近(コロナ以降)に出来たワインバーに何度か通い、お庭に咲いている草花からインスピレーションを得てイメージを抽象的に表現しています。
ブルゴーニュ地方も世界的に問題になっている気候変動の影響を受けながらブドウの育て方を試行錯誤しています。自然と真摯に向き合い、良いところも厳しいところも受け入れて自然と共に生活していく姿勢を私自身も大切にしていきたいと思っています。